サウス・バウンド

サウス・バウンド

人間正直に生きていても酷い目にあう世の中。さらわれて殺された小学生を守ることは出来なかったし、欠陥マンションのその後は、住民の方たちの取りあえずは税金でされることになったらしいけど、これで儲けた人たちの財産なんかとうに隠蔽されてるだろうし。こんな理不尽であふれた社会のあれこれを、一体どういう風に子どもらに説明すればよいのだろう。誰も信用しちゃいけない、ずる賢く生きれば得をする、とは言えないけれど、それがまかり通っている昨今なんだ。
さて、この本の主人公二郎君のお父さんは元過激派、内部抗争に頭にきて団体を離脱後も一人で戦っている。・・・というところは前半部分ではあまり見えてこない。働きもせず、ただのぐうたら、しかも各種公務員の人々に難癖をつけ揉め事を起こす破天荒な男。そんな父は放置して、二郎君は不良中学生に因縁をつけられ戦う日々。子ども時代は学校が全てであるから、二郎君の悩みは深刻。何故こんな目にあわなければいけないのか?理不尽に対する疑問は子どものうちから始まっているんだ。
現役過激派のアキラおじさんが居候してから、またまた厄介なことに巻き込まれ、警察、公安、右翼、左翼が家にやってきて、すったもんだの挙句、一家は西表島に移住することに。
「国」は必要ない・・・父一郎の主張である。前半部分の東京編では、この投げかけに読み手のカナタも半信半疑であった。実際この世の中で国なくしてやっていけるのだろうか?なにいってんだ、オヤジは?
ところが読めばわかるけれども、後半西表島編は、国などなくとも充分やっていける(気がしてくる)のだ。いいな、南の島。ここにいる限り、いじめや争いはないようだ。正に楽園。
しかし、そんな平和もつかの間、こんな南の果てまで「官」や「悪徳資本家」の手が回ってきてしまう。・・・続きは読んだ人だけ知っている。人の不正を正面切って主張するのは小市民には難しい。それを逃げずにやってしまう一郎の格好良さが絶品であります。この後の校長先生の話には感動したし、一郎のラストの科白にもジーンときた。こういうことをキチンと言える大人にならなくては。
この話は、あくまで主人公二郎君の視線で書かれている。何が正しいのか、誰が間違っているのか。小学生の頭で考え、答えを見つけようとする二郎君の成長ぶりが本当に素晴らしい。
・・・
さて全面的にこの作品をほめる訳ではなくって、気になった点があります。
それは、アキラおじさんが過激派の事務所に突入した時に、そこの指導者を殺してしまったこと。二郎は確信犯的にこの事件に加担させられている。子どもを巻き込むシビアな殺人事件をテーマにした作品ではないし、「人が死んだ」事に関してあまりにもサラッと流しすぎだと思うのです。何も死ぬことにしなくても良かったのでは。

書店に書いたレヴュー

東京中野に住む上原二郎君は小学6年生。元過激派の父一郎は無職で、「官」とか「国」が大嫌い。◆第一部の二郎君は小学生としては過酷な人生。学校では不良に狙われ、家では父が学校の先生や国民年金課の人とバトル。挙句、左翼や警察、公安とやり合い、南の島へ転居することに。第二部は新天地で平和に暮らせると思いきや、またしてもトラブルが勃発し・・・◆第一部では頭の痛くなるような出来事の連続だけれど、第二部で全てが明瞭になり爽快さに包まれました。集団に組せず正義を貫くことは正しいと思っていてもなかなか出来ない。「自分の頭で考え、正義の側につく」・・・島の校長先生の話に胸を打たれました。絶対お勧め。05/12/07★★★★★