町田康「告白」。

告白

告白

これは凄い。
あなたが万一、読もうかどうか迷ってここを見ている人ならば、他人の感想は見ずに読んだ方がいいですよ。P700もあって大変そうだけど(いや、大変だったが、河内弁。慣れてくれば大丈夫。)、意外とさくさく読めましたわ。


本屋大賞の候補が決まったときに、これと「ベルガ」を推す人が多い気がして、んじゃ読んでみっか、と思い、図書館に予約を入れたのだった。
で、全く前知識無しで読んでしまった。
タイトルから想像するに、恋愛小説じゃなかろうか、と思っていたぐらいだ。
冒頭から、時代物と判明、河内弁の嵐。驚いたな。
主人公の熊太郎は、自分でも言っているが、思弁のしすぎだ。考えているうちに、堂々巡りで、訳の判らないことになる。しかも見栄っ張り。これはいわゆる自意識過剰というやつですね?
その上、思ったことを適切な言葉にすることが出来ない。世間とはズレまくり。コミュニケーションが上手くとれずに、それを又思弁する。もう悪循環。全く持って「あかんではないか」なのだ。このフレーズが何回も出てきて、笑えるし、呆れるし。プチ極道だけれど、基本的にいい人なんだよ、熊太郎は。
そんな駄目な男の駄目な話が、2/3ぐらい延々と続いて、妻となる縫(ぬい)が登場するのだった。
ここから先は、もう笑えない。怒涛の如く読めました。
結末は悲しい。
思弁を重ねた上に、辿り着いたのは・・・。「あかんかった。」
我思う故に我何もなかった、と。
読み終えてから気付いたんだけど、これは実際にあった事件がモデルになっているのでした。「河内十人斬り」。河内音頭のスタンダードなんだって。
図書館本で帯もなかったため、わからなかったんだ。
事件だけみると、正に猟奇殺人事件。許すまじ。
しかし、「告白」を読んだ後では、それも已む無し、という気分にさせられてしまう。被害者の方が、ヒデー悪人ってのもあるが。
しかし事件は本当だけれど、勿論この本はフィクションで、熊太郎が思弁的であったかどうかなんて、わからないし、もしそうでも、殺す正当な理由とはならないわけで。
ということは。
この小説は、
「何故、熊太郎は、乳幼児を含む10人を殺さなければならなかったのか。」
を作り上げた作品であるわけですね。そうか。
帯には「人はなぜ人を殺すのか」とあるみたいだけれど、それはちょっと違うかもしれないな。


自分の思いを言葉に出来ない、なんてことは誰にでもあるはずで、熊太郎のもどかしさや態度と裏腹の善良さに共感するんだと思う。
「ああ、私ゃこんなことを言いたかったんじゃないのよ〜悪く思われちゃったかな?あ〜あ。駄目だぁ。」みたいな。
熊太郎をみてると、余程何も考えない方がましなんだけれど、何も考えない人間にはなりたくないもんな。

書店のレヴュー

明治26年、城戸熊太郎は、妻の姦通、借金問題のもつれから、乳幼児を含む10人を殺害した。なぜこの殺戮に至ったのか。熊太郎の一生を綴る。◆百姓の息子熊太郎は、農家仕事もせず、30を過ぎる頃には、昼間から酒を飲み、博打を打ち、女遊びに明け暮れる、半端な博徒を気取っていた。彼がこんなロクデナシになった過程が、幼少期から延々と語られていく。それは、熊太郎の思弁の海を行くが如く。彼は、思いと言葉を一致させることが出来ず、世間のズレに苦しみ続ける。その苦悩の果てに辿り着いたのは・・・。◆河内音頭のスタンダード『河内十人斬り』がモチーフ。十人斬って名を残した熊太郎の悲しみが、あまりにも辛い。06/04/23★★★★★