「水銀虫」朱川湊人。

水銀虫

水銀虫

言ってしまえば、ただ気持ち悪いだけのホラーって感じなんだけどね。この気持ち悪さも嫌いじゃないよ、私は。
心の闇とか、罪と罰なんかは、深層をえぐり出すようでなければ小説としては面白くないもの。でもこの作品は短編でそれほどえぐっていないのは仕方がないだろうし、ま、ホラーだから、これでいいんだと思うのよ。
「枯葉の日」
私、好きな人ができたの…と妻からいきなり切り出された夫。仕事にかまけて家庭を蔑ろにした結果の成り行き。
「しぐれの日」
子どものころ、雨宿りをしていたら若い女性が自室に招いてくれた。そこには旦那さんと赤ちゃんが…禁断の恋の末の…
「はだれの日」
姉が自殺した。母をショックから立ち直らせたのは姉の友人だったが、その後彼女は家に入り浸るようになって…
「虎落の日」
孫を亡くした友人を慰めるために、孫の健斗を連れて友人の家を訪れた。そこで出された食事は…妬みのあげく…
「薄氷の日」
IT関連の実業家と玉の輿になるつもりだったクリスマスイブの夜。過去にいじめた友人が街角に現れて…
「微熱の日」
兄が隠していたタバコを試すために、友だちとこっそり秘密基地にやってきた小学生。そこに現れたのは白い化け物で…
「病猫の日
重度のうつ病の妻を持つ図書館司書。部下の女性が心の支えとなったとき、妻の病のきっかけが判明し…


一番は「はだれの日」か。
姉が自殺した後、落ち込んでいた母親を励ました姉の友人さな子。次第に馴れ馴れしくなって家に入り込み、母親と共依存関係となり(実は装っていた)、母を自分に取り込んだあげく、どん底に叩き落した悪魔のような女であります。これは怖い。
タイトルの「水銀虫」は、さな子のHP。これは創作なのか、古来からあるものなのかわかりませんが、本当にざわざわする。

書店のレヴュー

人の魂に入り込んで這いずり回り、やがて無数の穴を開けてしまう水銀虫。この虫に魅入られた人たちの短編が7つ。◆心の闇に支配され常軌を逸して罪を犯してしまう人々。それぞれ単独の話だが、クライマックスに必ず水銀虫が現れ、その首筋に、耳の中に、下腹部にざわざわとした触感を植えつける。文字通り虫酸が走る作品。嫉妬、虚勢、いじめなど、題材はありふれているし、短編ゆえかストーリーも単純で目新しさは感じられなかったが、虫の気色悪さだけは印象に残った感じ。表紙もかなり気味悪いね。06/12/20★★★