「廃帝綺譚」宇月原晴明。

廃帝綺譚

廃帝綺譚

安徳天皇漂海記」の外伝のようなもの。歴史物だけど、フィクションですから。歴史なんて文献で残っているもの以外はわからない。こんな風に物語を作るなんて素敵だ。


「北帰茫茫」は大元帝国最後の帝王、順帝の話。傀儡で実権は宰相にあり、自分の無力さを憂う順帝。「私は誰なのか」「私はどこへ行くのか」とつぶやくばかり。
「南海彷徨」は明朝二代帝王の建文帝。彼もまた儒臣が実権を持った傀儡の王。叔父によって帝位を奪われ死んでいった帝。
「禁城落陽」は明朝最後の帝、崇禎帝。帝になったときには明朝の崩壊は終焉に近く、努力の甲斐なく滅ぼされ自害。
…と、ここまでは中国が舞台。前作でマルコポーロが持ち帰ったものがそれぞれの帝たちに希望の光を当てる非常に幻想的なお話。


「大海絶歌」は後鳥羽天皇の話。承久の乱が失敗に終わり隠岐に流された帝が、兄である安徳天皇と出会う。前作の第一章が思い出されますね。

書店のレヴュー

廃され追われ流された4人の帝王たちと蜜色の玉を巡る「安徳天皇漂海記」に連なる物語。◆かつて日本で神の子として生まれながら子と認められず船で流された水蛭子。前作で安徳天皇を守ったとされた水蛭子の残身である真床追衾(まとこおうふすま)が、安徳天皇と立場を同じくする廃帝たちの身辺に現れ、不思議をもたらす…◆栄華を誇った人物は、歴史小説でも華々しく描かれる。が、時代の終焉に居合わせたり、「愚帝」と評されたりした帝も数多くいて、彼らはぞんざいに扱われがち。元の順帝、明の建文帝、明の崇禎帝、日本の後鳥羽院。真床追衾の放つ蜜色の光で彼らにスポットをあて、盛者必衰のはかなさと美しさを描いた不思議な物語だ。「安徳天皇漂海記」を読まれたかたにオススメ。07/06/09★★★★