「こうふく みどりの」西加奈子。

こうふく みどりの

こうふく みどりの

1991年の大阪。主人公は中学2年生の辰巳緑14歳。気が向かないと学校サボったり、傘立てから綺麗な色の傘を持っていっちゃったりする普通の中学生。いや、いかんよ〜他人の傘持っていっちゃ。
家族は、物を直すのが得意なおばあちゃん(おじいちゃんは出奔)、いわゆる不倫で緑を生んだお母さん、暴力夫から逃げてきた従姉妹の藍ちゃん、藍ちゃんの子どもでしゃべらない意思表示しない桃ちゃん。メス猫のカミさんとホトケさん、メス犬のポックリさん。それと緑。全部女だ。家族は誰も働いていなくって、緑の父親が送ってくる生活費が月々33万円ほど。おばあちゃんを慕って近所の人が入り浸る。…そんな感じの中で生活は日々つつがなく過ぎている。
ストーリーは、緑の初恋を巡って同級生の明日香と険悪になったりと、ほのぼのと進んでいく一方で、合間合間に挿入される女性たちの手記や手紙や独り言によって、隠されたストーリーが次第に浮き上がってくる仕組み。
緑の話だけ読むと普通の少女の成長物なのに、短い手記だけでこの重さを持たせるとは。
「勝手に持っていかない」。
職員室前の忘れ物箱の張り紙。これが効いているな、と思った。
身の回りの女たちが、卑怯だったりずるかったりしながら自分の道を進んできた過程で、他人の物を奪ってきたことを、中学生の緑は知らない。いずれ緑にも降りかかってくる因果かもしれない。それでも緑はきっとまっすぐ進んでいくんだろうな。
そうやって人の道は出来ていく、ということか。

今月刊行の「こうふく あかの」も読まないとね。