「ラン」森絵都。

ラン

ラン

直木賞受賞後第一作。待ってました。
さて、森絵都さんは児童文学出身の人。YA向けの「生きるって素晴らしい」をテーマにした作品は過去にたくさんあった。今回は大人向けの森さんらしさがすっきりと出ている作品。予定調和ですが、清々しい結末を期待どおり得られたよい作品でした。未読の方はまず読むことをオススメします。


主人公は22歳夏目環。13歳で父母と弟を事故で失い、20歳で叔母が病死、天涯孤独になり生きる意欲をなくしている。大学も辞めてアルバイトを転々、今はスーパーマーケットの穴倉のような部屋で一人きりでパソコンを使う仕事をしている。
心の拠り所は、自転車屋さん。やはり家族を亡くした経営者の紺野さんと友達になるが、彼もやがて故郷へと去ることに。別れ際に息子さんの形見だった自転車「モナミ1号」をプレゼントされる。
この自転車が……。


あまりストーリーを書きすぎるとネタバレになるので程ほどに。この後とある事情のため環は自分の足で走り始めることになるのです。
前半の環は死者に引っ張られてばかり、常に後ろ向きで危ういのですが、後半から徐々に、やがて爆発的に強い人間へと成長していきます。
「走る」小説は一時期流行りました。読む前は「またか」という気持ちもありましたが、読後感はスッキリさがあって、やはり「走る」行為というのは爽快さを持つものなのですね。特にこの作品は、走る人が皆ど素人なので、全く経験がない私のような人間でもついつい「私もできるんじゃないの?」と思えてくるところがすごいですね。
脇役たちが多種多様で、これがまた面白かったです。年齢や境遇がバラバラなのは、どんな読み手でも共感できる人物を見つけられるよう配慮したのでしょうか。私の場合はもちろん真知栄子(笑)。ここまで毒吐く人は普通いないとは思いますが、内心は誰も同じでしょう。
それとやっぱりまたまた、何事も「きっかけ」は大事!これにつきます。