「船に乗れ!(1)(2)(3)」藤谷治。

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ! (3)

船に乗れ! (3)

高校の音楽科に通う津島サトルの青春と苦悩の3年間を描いた物語。20年以上を経て主人公が過去を振り返る。
上下巻でも二の足を踏むのに3巻なんてとても無理と思っていたけど、巷で評判なのがやけに気になりだし図書館に予約を入れたのが年末、やっと読むことができたのだった。(本屋大賞にノミネートされているおかげ様様で今やスゴイ予約数、ラッシュの前でよかった。…さて大賞はどうなるのでしょう?)
そして噂どおり大変面白かった。
努力して努力して紆余曲折あって最終的に成功する類の話ではないところが意表をついていた。部活ものが流行ってるから、例によって和気藹々の楽しい展開かと思い込んでいたから予想外でビックリ。途中からひたすら重い。話し手が冒頭にハッピーエンドでは終わらないことを臭わせていたので、ある程度覚悟して読み進めていたけれど、その上を行かれた感じ。読んでいる最中はとても苦しく理不尽さに苛立ったりしたが、最後まで読みきった今となれば、安易に爽やかなストーリー&結末よりもずっと良かったなあ、と感じる。
だって、高校生のときにみた夢を100パーセント叶えて楽しく暮らしました、なんて話は嘘くさいじゃないか。いえ、そういう人もきっといらっしゃるでしょうが、それは稀でそんなあなたはとても幸せな人です。
ほとんどの人間は自分の思うように行かないことに思い悩んで、周囲の人間を傷つけたり傷つけられたりしつつ、友情やら恋やらその他すったもんだで現在に至っているんだろう?だからとてもリアルで身近。
というわけで、これはなかなかにオススメ。でも青少年向けではないかなあ〜やっぱり青少年には努力して夢を叶えるお話を読んでもらいたい。
以下メモ。
長いので折りたたんでおきます。
(1)合奏と協奏
出だしの一巻目は普通の青春もの。
クラシックやってる自分は高貴な人間で特別、と思ってる津島サトルくんはピアノを挫折して誰もやってなさそうなチェロへ転向。家は裕福、お母さんの実家は音楽一家。愛読書はニーチェ。かなり痛いです。
芸大付属高を落ちて、祖父のコネで音楽科のある私立高校へ入学、そこでも相変わらず鼻持ちならない奴をキープ。そしてヴァイオリンを弾く美少女南と出会う…。
う〜ん、とっても甘酸っぱい。音楽関係の描写が専門的過ぎてイヤハヤ、と感じ始めた頃に倫社の金窪先生が登場、俄然面白くなりました。先生は最後まで重要な存在でしたねえ。。。
終盤、ファミリーコンサートの描写は圧巻。「音楽の演奏ってなんて楽しいんだあ、いいなあ」と思えた瞬間でした。
(2)独奏
二巻目は山場。一転して暗雲立ち込め。。。
2年生なった津島くん、夏休みに叔父さんの住むドイツへ音楽留学することに。その間に日本では思わぬ出来事が…。
この巻は重かった。
南が「一緒にドイツへ連れて行って」というシーンから読むのが辛くなったなあ。才能があって努力をいっぱいしても家庭環境の差異があってどうしようもないこと(津島くんちは金持ちだけど、南んちは普通)を、南ともあろう人がこらえきれないなんてガッカリ。
そして決定的な出来事が…
最初南にはずいぶんと腹がたったけれど、その後の行動は潔くっていっそ清々しいぐらい。彼女はラストまで立派だったよ。
そして一方の津島くんは痛々しすぎた。どうしてあんなことをしたのか、訳がわからない。卑劣で幼稚、若さゆえの過ち、と許せる範囲を超えていた。激しく失望しつつ(3)へ。
(3)合奏協奏曲
辛かった二巻目を乗り越えて突入した三巻目、3年生になった津島くんが将来について決断する。
二巻目で津島くんに絶望した私でしたが、三巻目を読んで救われました。やはり物語は最後まで読まないとわからない。一番の見どころは最後、津島くんと金窪先生の会話にありました。ホント感動した。良かった。


音楽は様々使われていて演奏場面の臨場感は良かった〜とはいえ知らない曲の方が多かったので、頭の中にメロディが流れてこなかったのは残念。