君たちに明日はない
垣根涼介君たちに明日はない」。
主人公はリストラ請負会社の面接官。不思議な事に余り殺伐とした感じがなくって、爽やかな印象。実際はもっと陰鬱な雰囲気のものなのだろうけど。リストラを前向きに捉える心構えを説いた作品ですか。
これと、「明日の記憶」が山本周五郎賞受賞。中高年には切実なテーマが揃ってますね。

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第18回山本周五郎賞受賞。主人公村上真介は企業のリストラを専門に請負う会社の社員。実は自身も社長にリストラさせられ、その後スカウトされた過去を持つ。5つの企業のリストラを巡る短編5話。様々な事情を持つリストラ候補者との攻防戦は、かなり真に迫るものがあります。晴れ晴れとした退職を迎えた場合もあり、全体的に悲壮感は少ない感じ。1つめの話でリストラ対象だった8歳年上の芹沢陽子を強引に口説いて恋人関係に。その後も陽子は恋人として度々登場し、やり取りが面白い。クールなリストラ面接官でプライベートはちょっと滑稽、エンターテイメント仕立てで読みやすい作品に仕上がっています。05/07/24★★★

ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)
アンドレイ・クルコフ「ペンギンの憂鬱」。
さてこっちは、ミステリーともサスペンスともいえるような作品。主人公は生きている人の追悼記事を書く仕事をする事になるのだけれど、その記事の対象者が実際に次々死んでいく、というストーリー。政治的策略によって暗殺される予定の人物の追悼記事を書かされていたわけで、途中でその陰謀に気付くのだけれどそのまま放置してしまうのだ、この主人公は。自分のやっている事がどこでどんな意味をもたれているのか知ろうとせず、取り敢えずの幸せに甘んじている主人公が憐れ、というか。小説は混乱の時代が舞台だけれども、今の時代でも儘ある感情ではあるね。ペンギンのミーシャがなかなか重要な存在。部屋に皇帝ペンギンがいることを想像すると、不思議な光景だよな〜。そこからしてテーマは「不条理」なんでしょうか。

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ソ連崩壊後のウクライナ首都キエフで暮らすヴィクトルは売れない小説家。ある日新聞社からまだ生きている人間の追悼記事を書く仕事を持ちかけられる。◆恋人と別れたヴィクトルは、餌を賄えなくなった動物園から貰い受けたペンギンのミーシャと互いを補うように静かに暮らしていた。しかし追悼記事≪十字架≫の仕事を請け負ってからというもの周囲は不穏なものに変わり、家族もマフィアの娘ソーニャ、ベビーシッターのニーナ(肉体関係あり)と増えていく。安定した収入と擬似家族という幻想を守るため、危険な事に巻き込まれていることに気付きながら敢えて真実を知ろうとせずに原稿を書き続け、結果とんでもないしっぺ返しに遭うことに。◆あとがきによると1990年代半ばのウクライナを舞台にしたこの作品は「きわめて社会性に強い風刺」と評されたようです。当時の背景を知らなくとも充分楽しめたし、ペンギンは素敵。05/07/25★★★★
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唐突に支店をOPEN。海外物は支店に集めようかと工事中。
ぐるりのこと
梨木香歩「ぐるりのこと」。
境界・個・群れがキーワードか。人として生きる姿勢を明確に持っている人なんだよね、梨木さんは。自分の身の回りから考えていけば、引いてはみんなの幸せまで達するのだろうか。

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「考える人」に連載された8つのエッセイ。「ぐるりのこと」とは「自分の身の回りのこと」ということ。目で見たり触ったり、そうしたことから物事を考えようとする姿勢が随所に見られる。話は不審船から中学生の幼児殺害事件、イスラム社会のこと、「ラストサムライ」、アイヌや菌類まで幅広く、そこから自身の作家活動の基盤とする何かを捜し求めるように広がっていく。時に不安定で繊細で、でも凛とした決意。ファンの方は是非読んで下さい。05/07/11 ★★★