カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」。

わたしを離さないで

わたしを離さないで

すごい話だった。
世間で評判らしいから読んでみたんだけど、前知識は全くありませんでした。それが良かったんだと思う。
読み始めて直ぐに「何かがおかしい」と思い、第7章で「ドキン」、第12章で「ドキドキ」した。謎の説明がされる第22章では呆然とした。
SFのような設定なのにSFっぽくないのは、それが現実にありえないこととは言い切れないからだろうか。
生まれたときから「使命」を持っていて、その運命をただただ静かに受け入れる主人公たち。逃げる事もせず、抵抗せず、暴れず、、、
「使命」について「教えられているようで教えられていない」と言われた彼らは、実はトミーが最後に言うように「教えられなくともわかっていた」のだろう。
医療が進歩した現代であっても、今のところ人は必ず死ぬ。いずれは死を受け入れなければいけない。でも、普段からそれを意識している人はあまりいないように思う。
それを考えると、彼らの幼年期から青年時代がキラキラ輝いて見え、うらやましくさえ思えるのだ。

書店のレヴュー

優秀な《介護人》キャシー・Hは《提供者》の世話をするのが仕事。12年間続けた仕事を引退するにあたって、幼少期からこれまで人生を告白する。◆最初は、イギリスのどこか田舎にある寄宿学校のような施設での生活の描写から始まるのだが、どこか違和感を感じてしまう。キャシーが話している相手には周知な事柄も、読者にはわからないからだ。この施設に隠されている謎は、読み進めると、それは不意打ちのように突きつけられるのだ。◆この本が何について書かれているのか、こういった場所に記すのは適切ではない。予備知識があるよりも、何も知らずに読んだ方が、受ける衝撃は大きいし、印象が深いものになると思う。そして読了した私は未だこの感想が何なのか理解できないのが正直な気持ちである。友情だとか愛だとか、生・死、命の倫理、人生とは。そういったあらゆることを含んだ作品であり、そのどれをも殊更に強調することはない。人それぞれに思う読後感は違ってくることだろう。06/10/23 ★★★★★
これは今年のベスト本に入れましょう。