「僕らの事情。」デイヴィッド・ヒル。

僕らの事情。

僕らの事情。

いい話だった。(以下ネタバレを含みますのでご注意ください)
主人公は15歳のネイサン。親友のサイモンは筋ジストロフィーで車椅子に乗った少年。
病気の事をなくせば、ごくごく普通の思春期の少年たちのお話だ。可愛い女の子のこと、ボードゲームのこと、気の利いたジョークを言わなければならない強迫観念(笑)。
くわえてネイサンには家庭の事情もある。両親は離婚していて、母と妹と3人暮らし意。生活は楽ではない。
ネイサンがサイモンと出会った時には、既にサイモンは車椅子の生活だったし、病気の事も周知のこと。障害があろうとなかろうと、二人には関係ない…はずだったが、サイモンの病状はどんどん進んでいくため、考えずにはいられない状態なのだ。


結末を言ってしまえば、サイモンは死んでしまう。これは最初から決まっていたのであって、この場面がことさら劇的に書かれているわけではないし、ネイサンも激しく取り乱したりしない。葬儀を前にしたネイサンの様子は爽やかでさえあるのだ。


子どもに、命を大事にしなければいけない、とどんなに口を酸っぱくしたところで心に響かないのは、昨今の社会状況からすれば明らか。やはり必要なのは実体験なのではないでしょうか。
この話の中で、ネイサンのお母さんが
「昔は死ぬのは子どもと年寄りの両方だった。だけど今は年寄りだけだもんね。」
と言う場面があって、子どもが死ぬ理不尽さに怒ったり、健康な事が嬉しいと思う自分を嫌悪するネイサンと、お母さんが説明する様子が描かれているんだけど、ここのお母さんは素敵です。生きることについて、こんな風に息子に語れたらいいな。

書店のレヴュー

15歳ネイサンの親友サイモンは、筋ジストロフィで車椅子に乗って生活している。学校に行ったり家でゲームをしたり、二人の関係はごく普通だが、サイモンの病気は着実に進行していった…◆難病を患う少年が登場するのだが、涙を誘う闘病記とは違っている。サイモンは同情を嫌い、毅然とした態度で痛烈なジョークを放ちクラスの人気者。彼は既に病気を受け入れていて、周囲の人たちも彼がもうじき死を迎える事を前提にしているのだ。◆どんなことがあっても人生はすばらしい…サイモンが与えてくれたチャンスは、尊い。「死」と向き合い、真摯に「生」を考えることで、クラスの子らが変わっていく過程が、緩やかに染み渡っていくようで印象に残った。命の大切さを語るとき、大げさな事など必要ないのだ。中学生以上向け。06/12/18 ★★★★★