「ミーナの行進」小川洋子。

ミーナの行進

ミーナの行進

新聞に連載されていた時に、飛び飛びで読んでいたんだけど、そのときは子供向けかな、と何となく思ってましたが、通しで読むと全然違ってた。
中一の1年間お金持ちの伯母さんの家に預けられていた朋子さんの思い出、のお話であります。
大変良い作品でした。
特記しておきたいのは、朋子の伯父さんに対する評価について。
伯父さんは栗色の髪と目、背が高く白い肌でベンツに乗っていて、おしゃれで颯爽としていて、器用で卒がなくって、おまけに社長。
そんな伯父さんを、朋子は折に触れベタ褒めする。気持ちはわかるが。
ところがこの伯父さんは、家にいつかないのだ。
最初は仕事が忙しいのか〜とも思ったが、次第に事情がわかってきて……
ま、男が家にいつかない、ときたら理由はアレです。困った伯父さん。
で、そんな困った伯父さんの事情に気付いて、言葉の端はしに不在を不安に思うことが上っても、朋子の伯父さんに対する評価は意外に下がらないんだよね。
普通は、嫌悪感をあらわにしたいところじゃありませんか。そういう表現は一つもないんだよね。
預かってもらっている身の上、他所の家の夫婦や家庭の問題に立ち入れる立場じゃないと思っていたからなのか、見た目のよさに惑わされてるのか(このポイントは結構ありかも)、男の甲斐性だと思っていたのか、無力な子どもに甘んじていたのか。
他の家族も、見てみないふりを続けるばかり。
見ないふりをしていない長男の龍一さんは、スイスに留学中。
と、イライラしていたら、終盤になって一石を投じる事に。
このあたりのくだりが好きだ。朋子、よくやったよ。
他にも、印象に残る出来事がいっぱい。面白かった。
イラストがカラーで入っているのもすごいですね。連載の時のままなのかな?

書店に書いた感想

1972年、家庭の事情で1年間芦屋の伯母の家に預けられることになった朋子。その家はクリーム色の豪勢な洋館だった。◆ドイツ人の祖母、ハンサムでスマートな伯父、どこか陰のある伯母、病弱で聡明な従姉妹のミーナ、使用人の米田さんと小林さん。それからコビトカバのポチ子。優雅な暮らしぶりに驚き戸惑ったものの温かく迎えられた朋子。その一年間が時代背景と共に美しい思い出として語られますが、時に暗い影を落とす出来事も…。◆光のあたった部分では華やかだったりコミカルだったりするエピソードあり、反面裏側には暗澹たる気分になる出来事が潜んでいて、そのバランスが絶妙。多感な時期の少女たちの姿がタイトル通りで力強く印象に残った作品。07/02/17