「<新釈>走れメロス」森見登美彦。

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

面白かった。
オマージュっていうか、リスペクトっていうか。
最後の2作は、元がどんな話なのか知らないけれど、よく出来てるな〜と思いました。特にメロス。
元の作品をこよなく愛している人は読まない方がいいかもね。
で、他の作品でもやって欲しい。
◇「山月記」(元は中島敦。)
俗事には一切関わらず、ひたすら長編小説を書き続ける男、斎藤秀太郎のなれの果て。
斎藤君は、この後もちょくちょく登場して毒舌を吐く。憎めない奴なんだけれど、憐れ。
途中大文字で「お母さーん」といったのは、もしや怖がりの芹名君?
◇「藪の中」(元は芥川龍之介。)
大学祭で上映された映画サークルの作品を巡る、様々な人の証言。真相は謎。
同一の出来事でも、見る人が違えば、ガラッと印象が変わってくる不思議。誰もが自分に都合の悪い所は見ないし、言わないし。
これは人の心理を付いていて、しんみり。
走れメロス(元は太宰治。)
詭弁論部存亡の危機をかけた約束を、詭弁論部がゆえに守らないことを貫こうとする芽野君のお話。破廉恥極まりないです。太宰も喜んでいる事でしょう。
桜の森の満開の下(元は坂口安吾。)
前出の斎藤を信奉する男が、桜の木の下で女に遭う。
その女に意見され、斎藤信奉その他アニメのDVDやらなんやらガラクタを捨てて小説を書いたら、新人賞を受賞、その後とんとん拍子に出世して…
これは怖い。元を読んでいないのが残念。
◇百物語(元は森鴎外。)
大学で人気の演劇集団を率いる鹿島のイベントに、何となく参加する事になった森見(作者自身ですか?)。鹿島は、その姿を誰も見た事がない謎の人物だという。
途中、目が血走った妙な男を見かけた。帰り際その男が「おれが鹿島だ」と名乗ったのだが…
不気味で怖いお話。これも元を読んでいない。


未読のものは、青空文庫で読めるかな。
それにしても、森見さんって、大人気なんだな。私が読んだのはこれで3冊目、一番人気の「夜は短し歩けよ乙女」は、ず〜っと前に図書館に予約したはずなんだけど、未だ来ず。表題作は、アンソロジーで読んだけどね。
このまま大学ネタで続けるのかな。
ここんとこ続けて読んできたから「なんかもうおなかいっぱい」気分が漂ってきた。やばいやばい。

書店のレヴュー

近代の文豪たちの名作のオマージュ、とでも言いましょうか。いつものごとく京都の大学を舞台にした短編が5つ。元の名著は「山月記中島敦、「藪の中」芥川龍之介、「走れメロス太宰治、「桜の森の満開の下坂口安吾、「百物語」森鴎外。冒頭の「山月記」に登場する小説を書き続ける男、斎藤秀太郎がいわば狂言回し的役割、その他の人物もあちこちに顔を出し、最後の「百物語」勢ぞろいする作りになっております。凝ってますね。◆「走れメロス」約束を守らない事に命を懸け走り続ける芽野が主人公。最後は桃色ブリーフでむさ苦しい男どもの乱舞、ともうメロス台無し(笑)。他の4つは切なかったり、摩訶不思議な話であったりと、バラエティに富んでいます。原作は読んでなくとも全く問題ありません。07/04/12★★★★