「海に帰る日」ジョン・バンヴィル。

海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を押さえて2005年ブッカー賞を受賞した作品。ってスゴイ宣伝文句だけど、乗せられて読んでみた。
面白かった〜とは言えない、複雑な感慨。いずれは誰の記憶からもなくなってしまうだろうことを恐れた1人の人間の回想、とでもいいましょうか。少年が豊満な女性に抱く恋心は、やがてその娘への恋に変わり、娘の死に出くわし…背景には海。まるで映画を観ているように美しい。


最愛の妻を悪性腫瘍で亡くしたばかりの老美術史家の、現在と、妻との思い出と、少年時代の記憶が渾然と、繰り返し波のように描かれる。純文学度濃し。
この主人公は、過去からずっとわだかまっていたものの正体を知るために、思い出の地を訪れ、人と会うのだけれど、それでますます翻弄させられてしまうのだ。
言葉にしてしまえば相手も自分も傷つくと知りながら、わざわざそれをする―老いると、あるいは死期が近づくと、人は過去に引き寄せられるのだろうか?その過去がただ楽しいだけでなくとも。

★★★★