「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ。

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

久々に翻訳物。最近お手軽な本ばかり読んでいたので気分転換に。
作者はタイ系アメリカ人の青年だそうで、この本を書いたときは25歳。7つの短編は舞台が全てタイで、語り手は一つを除いてタイの10代の若者。
これは、よい作品でした。
タイという国の状況は無知なので詳しくは知らないけど、この本でタイがわかったかというとそうでもない気がする。タイにこだわった話ではなくって、何か普遍的な人の営みが書かれている感じ。公平とか善悪に対する諦めみたいなものが全体を覆っていて、若者たちは人生の苦さを体験する。そして諦観して人は大人になるのかな。全般に結構辛い。
「ガイジン」
主人公の少年の父親はアメリカ兵で、後で本国に呼び寄せると言い残して帰国後音信不通に。心の中でアメリカを捨て切れない少年は、アメリカ人観光客の女の子とばかり交際するが……。
観光客は象と一夜の恋しか頭にないと知りながら、「自分を裏切らないアメリカ」を信じたい少年の葛藤が痛々しい。
「カフェ・ラブリーで」
父親が死んで生活が苦しい家の兄弟。兄の夜遊びに無理矢理連れて行ってもらった弟は、危険な遊びを目の当たりにして大人の世界を知る……。
兄がなけなしのお金で弟にマックを食べさせるシーンが印象的。
「徴兵の日」
タイでは徴兵は本当にクジ引きで決めるんでしょうか?一見平等のようにみえて、実は平等ではない理不尽さを知ってしまう場面が辛かった。この格差の中にあってなお友情の継続を求めるのは罪悪感に苛まれている側で、残酷。
「観光」
働きづめの生活を続けてやっと一人息子を大学に入れることが決まった母親が病魔に侵され、残り数日で失明するという。息子と二人で風景の美しい島を旅する……。
万国共通で母は強いです。
「プリシア」
これが一番のお気に入り。カンボジア難民の少女と、二人の少年の交流を描いたお話。歯が抜け替わる時期の年頃だから、この本の中では一番若年か。
大人より子どもたちの方が本質を見抜いているのにもかかわらず、無力なため何も出来ずに諦めてしまう姿が悲しい。子どもにこんな思いをさせちゃいけない。
「こんなところで死にたくない」
唯一アメリカ人老人が語り手の作品。半身が麻痺してしまったため、タイで暮らす息子夫婦の元に身を寄せる事になった老人。体の自由が利かない、言葉が通じず孫たちと会話が出来ない、耐えられない暑さ、諸々が老人を苛立たせタイ人の息子の妻についつい暴言を吐いてしまうのだが……。
これは、泣ける。すれ違っていた気持ちがひとつになって、家族っていいな〜という話でした。
「闘鶏師」
負け続けても闘鶏を止めない父親。やがて家庭は崩壊の危機へ……。
父親が闘鶏を止めない理由が明らかになってからが、もうどこにも行き場がない展開で辛かった。