「人くい鬼モーリス」松尾由美。

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)

ミステリーYA!シリーズ。
ミステリーとしてはちょっと「あれ?」な感じだけど、YA向けファンタジーとしてはとってもよかったと思います。センダックの「かいじゅうたちのいるところ」のオマージュ。


 夏休みに、人里離れた別荘で、小学生の家庭教師のアルバイトに誘われた高校生村尾信乃17歳。超美少女で10歳の芽理沙(めりさ)による面接に合格したその晩、芽理沙に納屋に連れていかれ見せられたのは、たてがみがあって、口が頬まで裂けた人くい鬼「モーリス」だった。


かいじゅうたちのいるところ」はウチにあったはずなんだけど見つからなくて(誰かにあげたんだったか?)、残念ながら再読はしてない。何度も読み聞かせしたんだけどな〜物語の冒頭と結末部分が同じセンダックの「まよなかのだいどころ」と入り混じっててどうも記憶が曖昧。少年が夜自分の部屋で寝てたら、周りがジャングルになるんだっけ?船に乗って、怪獣の島に着くんだったか。少年と怪獣たちが行進したり踊ったりする場面はたしかセリフがなくって、適当に効果音を入れてた様な気がする…。


さて、松尾さんの「モーリス」の話。
子どもにしか見えないモーリスは、死んだ動物の魂を食べて生きている(死体も一緒に!)らしい。そんなモーリスに戸惑っているうちに、人が亡くなって遺体がなくなるという事件が起きてしまう。遺体はモーリスが食べたのか?大人には信じてもらえそうもないモーリスの存在と事件の重大さのなかで、信乃は大人と子どもの間を行き来して思い悩む…。
芽理沙は皮肉屋のこまっちゃくれた子だけれど、やっぱり子ども。信乃に諭され、他者の痛みや人間の死について考えて感じるようになっていく場面が印象的。
事件は連続殺人に発展、登場人物の多さもあって混沌としてきたかと思いきや、「あっ」という間に終了してちょっと肩透かし。登場人物がやたら多いのは、多種多様な大人がいて、誰もが決して「立派な人」ではないという現実をみせるためだったのかしらん?
でも、最後の手紙のシーンがクライマックスでしたね。ひと夏の出来事が一生忘れない思い出になるなんて素敵。この夏芽理沙の周囲にはたくさんの大人がいたけど、彼女のことが好きでちゃんと可愛がって慈しんでくれたのは高校生の信乃だったんだな。