フィリップ・クローデル「灰色の魂」。

灰色の魂

灰色の魂

時代設定もさることながら、何とも古めかしい書き口と、重苦しく暗い雰囲気。冒頭から少女が殺され、その真相を、20年後、警官である「私」が語るストーリー。
人とはなんて悲しい生き物なんだろうか。かなり辛い話でありました。
以下、忘れないようにちょっと書いておく。もし、これから読もうと思っている人は、見ないでね。一応白文字。
主な登場人物のうち、特に重要なのは、デスティナ検察官だ。若い時に妻に死なれて後、世間から遠ざかって暮らしていたが、町にやってきた新しい女教師に妻の姿を写し見て、恋に落ちてしまう。しかしその女教師も自殺してしまい、検察官は職を辞し、事件当時は、なお一層世間から遠ざかっていた。
「私」は、この検察官を怪しんで、証言者をV市の判事のもとに連れて行っている間に、身重の妻を出血死で失ってしまう。
判事と、事件解決のためやってきた大佐は、はなから事件の真相を明らかにする気はなく(ましてや上流階級の検察官が犯人などとはもってのほか)、たまたま捕まえた哀れな脱走兵を縛り上げ、酷寒の空の下に放置し、無理矢理自白させ犯人に仕立て上げた。もとより脱走は銃殺で、同じことなのだから。


ここまでの話だけでも、十分苦しいのだが、このあと、さらに打ちのめされる真実がある。
死んだ脱走兵には、過去に犯した罪があったこと。
検察官は、殺された少女の写真を持っていたこと。


そして「私」が犯した罪のこと。


殺人事件については、何が真実なのか、というのは、実は最後まであやふやだ。人はみな「灰色の魂」を持つのなら、その罪を誰が許すと言うのだろうか。

書店のレヴュー

1917年12月、フランスのある町で10歳の美しい女の子『昼顔』の絞殺死体が見つかった。犯人は誰なのか。主人公「私」の告白。◆この作品の舞台の町は、第一次大戦時、戦場間近にありながら有する資源や工場があるため戦禍を免れ、その住民も工場に勤務することを強いられたおかげで戦場に駆り出されることを逃れている。が、国内から集められた兵士たちが希望もないまま戦場へ旅立ち、やがて人ではない物となって戻ってくる、そんな光景が日常となって、町全体が厚い雲と埃と泥にまみれ、寒々しい。また、特権階級とそうでない人たちの壁は決して崩されることはなく、両者は交わることがない。そんな中で起こった、食堂の娘の死は、一体なんだったのか。◆この作品は、犯人は誰か、と読者に問う物語だがミステリではなく、文学だ。人の愛憎、尊厳。どんな身分、どんな状況に置かれた人物でも、その魂に白黒のはっきりした区別はなく、誰しも灰色であること。結末は灰色のまま、哀しい。大戦下の重苦しさや、人の絶望の描写が胸をかき乱す佳作。06/07/18 ★★★★★