「山白朝子短篇集 死者のための音楽」山白朝子

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽ブックス)

『幽』に連載されていた作品の短篇集。装丁がキレイで、スピンが細紐3本になってるのは初めてみました。内容の繊細さとピッタリで素敵。
怪談だけれども、怖いだけでなく愛情が感じられ切なく悲しい。そして、粒が揃っているというか、いわゆる「ハズレ」がなくって、完成度が高いな〜と思いました。デビュー作だそうでちょっとビックリ。
以下メモ。
『長い旅のはじまり』
旅の途中で盗賊に襲われた父娘。父親は殺害され、娘は助け出され寺に保護されたが、後に身ごもっていることがわかった。産婆によると彼女は「無垢」らしい…。
凶刃に出会ったばかりに運命が翻弄され定められてしまう哀しい母子のお話だった。
『井戸を下りる』
厳格な父の怒りから逃れるために下りた井戸の底に、美しい女が暮らしていた…。
最初、放蕩息子でしょうもなく同情の余地なし、と思っていたけれども。何ともこれも哀しいお話でした。
『黄金工場』
森の向こうにある工場のそばで、金でできたコガネムシを見つけた少年。それを母親に見せると…。
息子からみると淡々として冷静だけれど、実は憎しみのあまり鬼になってしまったお母さん〜ああ、これが一番恐ろしかったかも。
『未完の像』
修行中の仏師の前に現れた少女。彼女の才能は素晴らしく、嫉妬心に駆られながらも仏様を彫る手ほどきをする…。
彼女は最後に救われたのか?仏像を彫るというのは、木の塊の中に仏をみることなのだな…。
鬼物語
沢沿いに続く桜並木の奥から出てきたのは…鬼に呪われた村に住む姉弟の哀しい運命。
鬼が最強過ぎて、追われるシーンが緊迫!「人にやさしくしなさいね。弱い者を見捨ててはいけないよ…」
『鳥とファフロッキーズ現象について』
瀕死の鳥を助けた父娘。鳥は人の気持ちを察することができるようだった。ある日父親は強盗に襲われ命を奪われ、一人残った娘は鳥と暮らしていたけれど、税理士が現れ遺産相続の話を…。
これが一番のお気に入り。助けた鳥が恩返しをしてくれるのだけれど、その気持ちがあまりに一途で切なくって泣けた。
『死者のための音楽』
難聴だった故郷の母が自殺を図って…。母の遺書と娘の語り。
まるで荘厳な音楽が聴こえてくるような。


作者が「=乙一」という噂があるみたい?。感化されやすい性質なんで、そういわれるとそんな気がしてくる不思議(笑)。