「光媒の花」道尾秀介。

光媒の花

光媒の花

登場人物がリンクしていく連作短編集。またしてもどんでん返しやミスリードがない作品。これからはずっとこういう作風で行くのか?
一つ目のお話からいきなりザワザワする後味の悪さ。印章店主が主人公の「隠れ鬼」は、闇に落ちてしまった人の悲しい人生…。
二つ目のお話は小学生の兄妹が主人公の「虫送り」、二人で夜に河川敷で虫取りをするのだけれど、これもまたザワザワした終わり方…。
三つ目のお話「冬の蝶」は、河川敷に住んでいたホームレスの高校生の時の思い出で、あまりにも悲しく切ない…。
このままずっとザワザワドヨドヨしたストーリーばかりが続くのかと気が滅入りそうになったのだけれど、次の「春の蝶」から次第に光が差し込んでくる予感が…。


あっと驚く展開がないけれど、味わい深く面白かった。罪を犯して暗闇に囚われても、徐々に柔らかな光に包み込まれ、赦されていくかのような、そんな趣きが無理ない流れで描かれて見事でした。ミステリー色が薄くなっても、大好きな作家さんでいてくれてありがとう。