「弟の戦争」ロバート・ウェストール。

弟の戦争

弟の戦争

ぼくの弟フィギスは、心の優しい子だった。弱っている動物や飢えた難民の子どもの写真なんか見ると、まるでとりつかれたみたいになって、「たすけてやってよ」って言う。人の気持ちを読みとる不思議な力も持っている。そんな弟が、ある時奇妙な言葉をしゃべりだし、「自分はイラク軍の少年兵だ」と言い始めた。フィギスは12歳。1990年、湾岸戦争が始まった夏のことだった…。弟思いの15歳の兄が、弟を襲った不思議な事件を語る、迫力ある物語。イギリスで子どもの読者が選ぶ賞を複数受賞、ヨーロッパ各国でも話題を呼んだ作品。シェフィールド児童文学賞受賞、ランカシャー州児童書賞第1位、イギリス児童書連盟賞部門賞受賞、カーネギー賞特別推薦、ウィットブレッド賞推薦。小学校中・高学年~。

大変よかったので、久々にあらすじを紹介しようかと。これから張り切って読もう!と思ってる人は、ここから先はネタバレだから読まないでね。




15歳のトムは、弟が生まれる前、想像上の友達を持っていて、彼の名前がフィギス。頼れる奴、という意味。
3歳下のアンディが生まれると、トムはアンディをフィギスと呼んで可愛がった。


感受性が強くて(あるいは未知の能力のため)他者の意識とシンクロしてしまうフィギスが12歳の時に湾岸戦争が起こり、フィギスはイラクの少年兵ラティーフと同調してしまう。
余りにも強いラティーフの意識のため、フィギスの意識はイラクのラティーフの中に閉じ込められ自分の体に戻れない。
精神病院の病室の中で防空壕を作り隠れ、日々空爆に怯えて暮らすフィギス=ラティーフ。トムは彼に付き添っているうちに、イラクの戦火の下で犠牲になっている子ども達や、一般の人々の存在を知ることになる。
やがてイラクでは激しい爆撃があり、ラティーフは死んでしまい、フィギスは…


最後にトムは、アンディのフィギスだった部分(事件後アンディは記憶をなくしている)を「ぼくらの良心だった」と言う。
マスコミを通してしか情報を得られない一般人に、戦争の真実は見えない。
が、フィギスは見えないものを見せてくれたし、彼は失われてしまったけれど、トムはその出来事を忘れない。


これは良い作品でした。正しい戦争なんてないってこと。
あと印象に残った箇所。
TVのニュースにしがみついて、多国籍軍を応援し、サダム・フセインを罵倒するお父さんと、日々ボランティアに励むお母さん。これが一般人の姿か。偽善者に見えるけれど、彼らは責められない。
アラブ系医師のラシード先生。彼がすばらしい。彼なくしては、この作品は成り立たない。特に人種差別に対する姿勢の記述がとってもよかった。

書店のレヴュー

戦争とは?◆僕(トム)の3歳下の弟アンディは、賢く優しいのだが、他人を慮るあまり完全に他者と同化してしまう事がある。それは驚くことに実在の人物で、たとえばナイジェリアのまじない師だったり、エチオピアの飢えた少女だったり、庭で見つけた子リスだったり。そして湾岸戦争が始まった時、アンディはイラクの少年兵ラティーフの意識に乗っ取られてしまった。付き添うトムは、アンディの姿を通して現実の湾岸戦争を体験することになる。◆作者は1990年8月に始まった湾岸戦争に憤りを感じ、この本を書き上げたそうです。まるでTVゲームや映画のような映像に驚きを感じた事を思い出しますが、TVはそれ以上のものは見せてはくれませんでした。あの爆撃の下にいたイラクの人々たちにも普通の暮らしがあり、たくさんの子ども達が犠牲になったこと、そして世界の多くの人々はその子どもの事なんか知らずにいること。戦争とは何か。その他人種差別など深い意味を含んだ作品です。小学生には難しいかも。06/11/10★★★★★